ゴッホの手紙を読む

第三回レクチュアの報告   講師・矢野静明


 7月29日(日)、「ゴッホの作品と手紙」連続レクチュアの第三回を開きました。今回は、ゴッホがボリナージュ炭鉱の伝道師職を解かれ、あちこちを転々としながら、あまり折り合いの良くなかった両親のいるエッテンに仕方なくたどり着き、その時に画商をしていた弟テオからのはげましを受け、画家への道を決めるまでを取り上げました。

 つまり、我々がよく知る画家ゴッホが誕生するスタート地点にようやく到着したことになります。ゴッホの生涯を大ざっぱに区切れば、画家へのスタート地点にたどり着いた時点で、すでに三分の二の時間が過ぎているのです。ここからさらに何年間かの孤独な修業時代が続きます。

 我々がイメージする大色彩画家ゴッホが登場するのは、まだまだ先のことです。しかもそれは、ゴッホの最晩年、わずか数年間のことでしかありませんでした。今回のレクチュアの内容もそうでしたが、そこに至るまでのゴッホは、モノクロの暗い画面に沈み込み、周囲の貧しい人々や陰鬱な風景をチョークや木炭でデッサンし続ける人でした。

 けれども、画家へのスタート地点に至るまでの、幸せとはいえない彼の生き方と経験、そこで生まれたゴッホの根本的な考え方は、その後の画家としての生き方と、絵画に対する考えを決定的なものにします。後半に現れる、あの光を帯びた強烈なフランス・アルルの明るい色彩の奥底には、色彩と無縁だった初期のゴッホ、生きることそのものに苦しんだオランダ時代の暗く深い感覚がずっと潜み続けていて、それは生涯消えることがありませんでした。

 ゴッホの作品と一緒に、彼の残した手紙をたどることは、一人の画家が、世界から受け取った経験や感情を、どうやって自らの作品へと移しかえ、それを実現しようとしたか、それをたどっていくことを意味します。ゴッホの激しい色彩は、単に強いだけの色彩なのか。強烈な光は、その背後に暗い夜のような影を否応なく生み出すはずです。ゴッホの絵画と残された手紙は、そのことを我々に伝えてくれます。


 次回は来月8月30日(木曜)に開きます。ゴッホが初めて油絵にたどりつく、オランダ・ハーグからアントワープ時代の予定です。

 今まで参加されたことのない方の参加も随時歓迎します。


申し込み ギャラリー・アニータまで
  電話   046-254-4833
会費 1000円(茶菓子付き)